雑木林の管理技術(3)

3.里山管理のあり方と方策

(1)自然保護と自然の保全・利用

我が国ではこれまで、確実に保護して手を触れるべきでない原生自然(自然保護)と計画的な保全管理のもとで利用を図る二次的な自然(自然の保全的利用)との関係が曖昧でした。そのため、自然の質や場所をわきまえない利用の仕方や無用な誤解や対立関係が生じるのは、結局、自然保護と自然の保全・利用との関係が曖昧にされているからであり、それが自然林のみならず、雑木林のような二次林さえも破壊される原因になっていると言えます。従って、自然の質や立地に応じた、自然保護と国土の保全・利用のための的確な計画と、実行ある法制度の早急な整備が望まれています。しかし、私達自身も自然の内容をよく見極める知識と経験を身に付け、その対象や問題の実状に応じて的確に判断し、活動できるようでありたいものです。もち論、我が国の場合には、いわゆる原生自然のほとんどが失われてしまっており、残存するのはわずかなものでしかありません。従って、今後は里山の二次的な自然についても、その一部は原生自然に復元する手立ても考え、それなりに自然遷移の手助けをしてやる必要もあります。

(2)里山の植生タイプ

一口に里山と言っても、様々な植生タイプが見られます。もち論、面積の多くを占める代表的なものは、アカマツ林と雑木林なのですが、これらもさらに気候条件や土壌条件、それに人間の手が加わってバラエティーに富んでいます。その代表的なものは次のとおりです。

1)アカマツ林

山地の尾根部や岩場のように、土壌が薄くて乾燥した場所が、もともと、アカマツが自然に生えていた所です。水墨画や錦絵に描かれている断崖の松は、ふるさとに生きる松の様子を表しているわけです。このように生活条件の厳しい場所はほかの競争植物を寄せつけないので、このような条件でも生きていけるアカマツにとっては、都合が良いのです(このような場所を、それぞれの植物の生態的最適域と言います)。もし、アカマツを平地の土壌が肥沃な場所に植えたとしたら、アカマツは山の上よりもずっと成長が良く、大きく育ちます(生理的最適域という)。しかし自然状態では、そういう場所はシイ、カシのような常緑広葉樹(西日本・東海・関東地方など)や、クリ、ミズナラ、シデのような落葉広葉樹(北陸・東北地方など)が、うっそうと茂っているため、入り込む余地がないのです。人間が森林を切り払ってやって、アカマツを実生(みしょう:種から芽生えた苗木)からスタートさせたとしたら、まず旺盛に繁茂し覆いかぶさってくる雑草軍団と戦わねばなりません。この試練を克服できれば、つぎには他の木との戦いが始まるのですが、アカマツの成長は比較的はやい方なので、なんとか大きな木にまで育つことも出来ます。問題は二代目です。アカマツは自分の寿命がくる前に、二代目を育てておかねばなりません。しかし、林冠(りんかん:林の上層部)は大きな木の枝葉でびっしり覆われている上に、林床(りんしょう:林の地表面)には低木類が一面に繁茂しているため、真っ暗です。アカマツの実生は、暗い場所では生長することができません。たとえ種から芽生えても、陽光不足のため生きていけないのです(陽樹または好陽性植物という)ですから、人間が燃料を得るために、定期的に森林を伐採したり、低木類を下刈りしてくれるのは、アカマツにとって本当に有り難いのです。人間が農業を始め、さらに人口の増大や産業の発達とともに町や都市をつくって、森林に手を入れる範囲がどんどん広がると、山上や断崖でひっそり生きていたアカマツは、その分、自分達の勢力範囲を広げることが出来たのです。もち論、あまり過剰に人間の手が入って、アカマツさえ生えないハゲ山になったのでは、どうしようもないのですが。こうしてアカマツ林は、我が国の都市近郷の丘陵地や里山に見られる、ごく有りふれた森林となりました。しかし、それだけに人々に親しまれ、緑に映える赤い樹皮の色や、風雪に耐えた優美な樹形と枝振りの味わいとも相まって、古来より文学・絵画や舞台背景の題材にも用いられてきました。また、アカマツ林は常緑針葉樹林であるにもかかわらず、明るい雰囲気を持つことから、間伐や下刈りなどの管理を行うことにより、レクリエーション林として利用するにも適しています。

 

 

                                  

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